Part.01
「やっぱ残業した後は、美味しい夜食で自分にご褒美あげないとね~!」
深夜の道端に出ている屋台で、デスラブラジオの名物MC二人は大いに食事を楽しんでいた――正確には、しかめっ面で頬杖をつくデイジーが、「戦場」を一掃しようと奮闘するラファーを眺めていた。
「はぁ、こんな深夜に暴飲暴食するなんて、全く体型管理する気ないんだね……」
「ゴホゴホゴホッ……デイジーちゃん、今夜はイレギュラーだって!次回のラジオのために頭使ったんだし、仕事に戻る前に栄養とらなきゃじゃん!」
「でも、ラファーが今食べてるものに『栄養』があるとは思えないけど」
その時、隣のテーブルの騒ぎが二人の注意を引いた。
「酔ってなんかない!本当に見たんだ! 絶対あれは幽霊だった!最近ネットで話題の古城の幽霊だ!」
「もともとあの辺を見て回ろうと思ってたんだ……貴重な骨董品があるって聞いたから……」
男は隅のテーブルに座り、虚ろな目のまま恍惚とした表情を浮かべ、酒の勢いにふらふらとしながら独り言を続ける。
「俺は……ホールに入った。そこは真っ暗で、その場を照らすのは懐中電灯の光だけ。すると突然、ガサガサッて音がしたんだ。ネズミかと思って振り向いたら……そこに……そこに!」
男は急に声を荒げると、両手の指の関節が白くなるほどテーブルの端を強く握った。
「ミイラが……いたんだ。それは……ただそこに立って、じっとしたまま俺を見つめていた!身体の包帯はボロボロで……ランタンを持っていた……明るいランタンだ!」
「お……俺の逃げ足が速くてよかったよ。そうじゃなかったら……魂を吸い取られるところだった!」
この酔っぱらいは明らかに、ニューシティで今話題の怪談――「古城の包帯幽霊少女」に出くわしたようだ。
「幽霊」は身体に包帯を巻き、ランタンを手にして裸足で宙に浮き、その幻想的で透明な身体を路地の薄明かりに見えつ隠れつさせるらしい……
その幽霊が何をするかについては、目撃者の間でも意見が分かれていた。ある人は、身体を通り抜けて突然、路地の死角に消えると言う。
またある人は、幽霊に魂を吸い取られ、正気を失ってバカになってしまい……翌日、間違った報告書を提出したと言っている。
「待って、最後のは明らかに自分のミスの言い訳でしょ……ラファー……やっぱり……」
話を聞いたデイジーは低い声でつっこむ。彼女は頭を振り、急いでパートナーを引っ張って、このつまらない噂話を終わらせようとした。結局のところ、DisMythにはこのような噂がたくさん飛び交っている。恐らく注目を集めたいアカウントか、観光客を呼び込もうとするお化け屋敷が考えた誇大広告に過ぎないだろう。
しかし目を輝かせるラファーを見て、デイジーは嫌な予感がした。
こうしてニューシティ郊外の夜に奇妙な光景が現れた。有名なラジオMCのラファーが、生きることに未練がなさそうなデイジーを街の隅々まで引きずり回しているのだ。「残業は嫌。寝たい」というデイジーの抗議を無視し、ラファーは「取材」という名の残業をしている。
二人がやみくもにニューシティの路地を行ったり来たりしている時、目の前の電柱の陰から一人の男が現れた。
「お二人さん、こんばんは」
彼は山高帽をかぶり、ややみずぼらしいジャケットを羽織っているが、2本の精緻な口ひげを生やしており、その顔はふっくらと肉付きがいい。
「ひぃ!おじさん、夜中に電柱の後ろから出てくるのは怖いって!」
驚いたラファーはタコのようにデイジーの身体に巻きつき、牙をむき出し爪を振るうかのごとく文句を言った。
「はは、どうか怖がらないでください」
中年の男は懸命に優しさを示そうとしたが、その少し凶悪な顔では説得力に欠けている。
「あなた方もあの幽霊の都市伝説を聞いて、肝試しに来たんですよね?」
男は両手をこすり合わせて微笑んだ。
「そうだけど……なんで分かるの?」
ラファーはぽかんとしながら目の前の男に尋ね、傍にいたデイジーは首を横に何回も振った。
「だって私は、このエリアで最も信頼できる情報屋ですから!」
男は帽子を脱ぎ、頭に残った数本の髪の毛をそっと撫でる。
「私はこのエリアの全てを把握しています。ほんの少し報酬を支払ってくだされば、あなた方の要求にお応えしますよ」
男はポケットから少し黄ばんだニューシティの地図を取り出すと、赤い丸が付いた場所までゆっくりと指を動かす。そこは未完成のまま放置された建物だった。
「ほら、ここですよ。ここのドアと窓は封じられているんですが、悪霊を外に出さないようにするためだと言われています」
「入り方を知っているのは私だけです。なので、こうしませんか?この出会いも何かの縁。友情価格で300ディスコインはいかがでしょう?」
不審な男を警戒して、デイジーは背後からこっそり護身用の武器を取り出し、ラファーに手渡す。
「ねぇ、デイジーちゃん。この人すごそうじゃん?もしかしたら本物かもよ」
予想通り、ラファーはまた衝撃的な発言をした。
「……」
「なんか言ってよ!ほら!こんな貴重な情報がたったの300ディスコインだよ!?お買い得でしょ!」
「焼肉10回分の値段だよ」
情報を持った人が向こうから来てくれるとは、眠い時に枕をくれる人が現れたようなものだ。デイジーの反対を無視し、ラファーは中年の男について行く。
そうして、三人の姿はニューシティ郊外の深夜の闇に溶け込んでいった。
Part.02
ラファーとデイジーは中年の男の後について、そう遠くない所にある荒廃した未完成の建物に到着した。ラファーが約束通り男に「案内料」を払うと、彼はピッキング道具のような物を取り出し、ドアの鍵をいじり始める。
そしてカチッという音が聞こえ、ドアがきしみながら彼女たちの方へ開いた。
「えっ、ちょっと待って。もう帰っちゃうの?」
ラファーは明らかに彼のアフターサービスに不満げだ。
「はは、私は道案内をするだけです。この世で幽霊が一番怖いので、中に入る勇気なんてありません」
その場に冷たい風が吹き抜けたが、目の前のハゲ男は大量の汗をかいている。
「もしあなたの言ったことが嘘だったらどうするの?幽霊少女が中にいるかどうかなんて誰にも分からないのに」
デイジーも首をかしげながら尋ねた。
「ご心配なく。私のサービスは常に好評で、お客様からのレビューもいいものばかりなんです!もしご満足いただけなければ、クレームを入れてください!」
「……レビュー?クレーム?」
デイジーは怪訝そうに男の言葉を繰り返す。
そんなに幽霊が怖いのだろうか。中年の男はすぐにやらなければならない重要なことがあるかのように、適当にはぐらかし、笑顔のまま急いで立ち去った。
ラファーはデイジーを見て肩をすくめた。せっかくここまで来て、「案内料」まで払ったのだから、当然中に入らなければならない。
建物のボロボロなドアを押し開けると、カビのような不快な臭いがして、二人は思わず鼻をつまんだ。
「えっと……幽霊さんってマジでこんなとこに住んでるの?ちょっと汚くない?」
ラファーがくぐもった声で尋ねる。
その言葉が出た途端、黒い影が二人の横を通り過ぎ、草が生い茂った中庭に向かった。
冷たい月明かりの下、白いシーツに包まれた人の形をしたものが現れる。それはランタンを手に持ち、顔は油性ペンで描かれ、身体にも様々な落書きや汚れがついていた。
動きが非常に速く、二人がぽかんとしている間に庭の奥深くまで走っていく。その姿は月明かりに照らされてぼんやりとしていた。
ラファーは全身に鳥肌が立つのを感じ、デイジーは少し怪訝そうな顔をした。
「ラファー、ちょっとおかしいと思わない?」
「あんなに大きな幽霊なんて、もちろんおかしいよ!」
「そうじゃなくて……噂の幽霊少女は若い女の子のはずでしょ?でもあれはちょっとゴツすぎると思う。しかも白い包帯に包まれてるって話なのに、汚いシーツだったし……何より!ここは古城じゃない」
デイジーは一気に不審な点を挙げていった。
「うーん……成長期とか?でもあの幽霊さん、確かに不潔だったよね。インタビューしたくないな……」
ラファーはまだ呟いている。デイジーはしばらく考えた後、突然銃を取り出し、空に向かって発砲した。
「ちょっ何!?びっくりするじゃん!それに、銃って幽霊に効くの?」
「うわぁーー!」
銃声が夜の静寂を切り裂き、二つの声が一緒に響いた。一つはラファーの愚痴、もう一つは……男の叫び声だ。
「確認しに行こう」
デイジーは落ち着いた様子でそう言った。
ラファーが端末を掲げてライトを当てると、シーツに包まれた人影が草むらで丸くなって震えていた。
デイジーが目の前のシーツをめくると、先ほどまで案内していた情報屋の凶悪な顔が二人の目に飛び込む。もちろん、今の彼はパニックに陥り明らかに怯えていたが。
「これが幽霊少女の真相なの?おじさん?」
怯えていた男は少しずつ平静を取り戻していく。最初は気まずそうだったが、突然また凶悪な顔をして二人を指さし文句を言い始めた。
「このガキども!ただお前らを怖がらせようとしただけなのに、俺の命を狙うつもりなのか!?」
デイジーが手に持っていた銃を振ると、男の勢いは再び衰え、シーツを取って地面に座り込む。
「つまり、幽霊少女は本当にいるわけじゃなく、このおじさんの自作自演だったってわけか」
ラファーは、ハッとした様子で納得した。
「だったらなんだ?俺はこのビジネスチャンスを鋭く察知しただけだ!ガキどもがこの話題に熱中してるのをネットで見て、思いついたんだよ。幽霊の格好をして怖がらせれば、ガキどもはスリルを求める心が満たされるし、俺も金を稼げて一石二鳥だろ!」
「でもこんなん詐欺じゃん!あたしたちから高い案内料ふんだくってさ!返金しろ!」
こんな単純な手口に騙されたかと思うと、ラファーは怒りを感じずにはいられなかった。
しかし男は鋭い目つきで反論する。
「返金だと?ちゃんと『古城の包帯幽霊』を見せてやっただろ。つまり約束は守ったってことだ!」
「でも、あんたは本物じゃないじゃん!ただの偽物!それに汚くて臭いし!」
ラファーは顔をくしゃくしゃにして更に言い募る。
男は後ろめたく思いながら、隅の暗闇に置いてあるインスタントラーメンのカップと食べ残した弁当の山をちらりと見た。彼は「仕事」のために、半月前からこの廃墟に住んでいたのだ。
「チッ、幽霊なんかいるわけないだろ?噂の幽霊なんて存在しないんだよ!本物がいないなら、当然俺が本物ってことになるじゃねぇか!ん?お前たち何を見てるんだ?」
男はふと、二人の少女が固まっているのに気付き、その視線を追って後ろを振り返った――
ランタンを持ったほっそりした人影が、建物の硬く滑らかな壁からゆっくりと現れ、飛び出してきたのだ。
その身体は真っ白な包帯で覆われ、少女の美しいボディラインを際立たせていた。持っている華麗なランタンは真っ暗な庭を照らしている。
まさに噂の「包帯幽霊」だ。
「ん~?あなたたち……わたしが存在しないって言ったのぉ?」
幽霊少女は三人を見つめている。ランタンの中の霊炎は今にも噴き出しそうな気配だ。
幽霊少女は一歩前に出ると、手を伸ばして男の頬をそっと撫で、その手を頭蓋骨に突っ込んだ。
ラファーもデイジーも、男の脳みそが飛び出るのを見る勇気がなく、慌てて目を閉じる。
しかし、予想したようなグロテスクな場面は起こらず、幽霊少女の腕がただ彼の頭を通り抜けただけだった。
「嘘だろ、幽霊は本当に……本当にいるんだ!やめてくれ、脳みそを吸い取られたくない!」
男はぶつぶつと言うと、白目をむいて顔を真っ青にしながら気を失った。
気絶している偽者を見て、幽霊少女は聞き取れないような低い声で何かを呟く。
そして呆然としている二人を見て、最初に登場した時の威厳ある姿に戻り、こう言った。
「ゴホン……二人とも、もう迷惑な『偽物』の邪魔はなくなったわ」
「わたしは……ここに住んでるわけじゃないけど、わたしの古城はここからそう遠くないの。お客さんとして来るのはどう?絶対に……おもてなしするわ」
彼女の姿は徐々に消えていき、遠くの山の頂上に向かって漂う煙に変わる。そこには本当に古城が建っていた。
デイジーに頬を叩かれてようやく、ラファーは正気に戻った。
「まだインタビューするつもり?」
ラファーは、生きているのか死んでいるのか分からない男を見て、ぎこちなく微笑む。
「ゴホン、やっぱやめとく?ちょっと危ない気がするんだよね」
「私は見てみたい。私のレーダーが、彼女は本物だって言ってるから」
ラファーは目を丸くする。それまで無関心だったデイジーはやる気に満ち溢れ、幽霊少女が消えた方向を追って古城へ歩き出した。
「いや!あんたもレーダー持ってたっけ?マジで言ってる!?待ってよ!……ああ、もう知らない!あたしは帰るから!……置いてかないでよ、デイジーちゃ~ん!」
Part.03
口では「死んでも行かない」と言っていたが、結局ラファーはデイジーの後をついて行った。二人は緑色の煙を追い、気が付くと荘厳にそびえ立つ古城の前に辿り着いていた。
「幻覚を起こす異能力にかかった感じしない?よく考えたら、ニューシティの郊外にこんな大きなお城があるとか聞いたことないよね。しかも何もない所にぽつんと建っててさ。どこからともなく出てきたみたいじゃん」
ラファーはデイジーの袖を引っ張り、足は抑えきれずに震えていた。
「もしそうなら、その方が面白い」
デイジーの表情は自然で、少し興奮してさえいる。
その決意を見てラファーも協力するしかなくなり、一人は左の扉を、もう一人は右の扉を押し開けた。
耳障りな擦れる音の中、長年埃をかぶっていた城の扉が開かれる。
冷たい風がホールを吹き抜け、月明かりに照らされた埃が揺らめいた。
天上に吊るされたシャンデリアの装飾品がぶつかり合い、高い音を立てる。それは止むことなく、徐々に悲しい舞曲のようなメロディーに変わった。
突然、テーブルの燭台に三つの青い炎が灯る。
そしてガチャンという音と共に、古城の扉が閉まった。まるで一対の見えない手が二人の逃げ道を封じたかのようだ。
「ゴホン、デイジーちゃん。あたしの勘違いかもしれないけどさ、なんかこっちを向いてる肖像画があたしたちをチラッと見た気がするんだよね……」
ラファーは怖がってデイジーの後ろに隠れた。
燭台の揺らめく火の光に照らされ、肖像画の人物が視線をぐるりと回す。そして目線を下げ、笑っているような、笑っていないような表情を浮かべた。
冷たい風は止んだが、「舞曲」はまだ鳴り止まない。先ほどの冷たい風よりも更に大きな寒気が、足の裏から背筋まで上った。
本物がもたらす圧迫感は、明らかに偽物の下手な手口とは異なる。
「私の異能力を覚えてるよね……」
デイジーの顔も真剣なものになった。
「普通の人には聞こえない声が聞こえるってやつ?」
「ここにいるもの全部が生きてるよ……『ようこそ』って言ってる……」
古城の外では風が吹き荒れているが、中もまた賑やかだった。
燭台、シャンデリア、肖像画などが浮かび上がり、二人を取り囲む。
ラファーは震えていたが、まだ強がっていた。
「こんなの大したことないよ!確かに何言ってるかは分かんないけど、気持ちは理解できる!あたしは人とコミュニケーション取るのが超得意だから、相手が人間じゃなくても……できるはず!」
「じゃあ、彼らはなんて言ってるの?」
「こいつらの言葉理解できるのはあんたの異能力でしょ?なんであたしに聞くわけ!?」
燭台の三つの炎が突然燃え上がり、火の幕が二人の影を壁に映す。怯えて一歩後ずさったラファーは、うなじにまた冷たい息を感じた。
振り返ると、微笑む肖像画がある。その見下ろす視線は、まるで捕らえられた野獣がもがくのを興味深く観察するようであり、狩人が獲物を念入りに見るかのようでもあった。
ふとデイジーの表情が更に真剣さを帯びる。彼女がうつむいて手の甲を見ると、元から血色の悪い手は病的に青白く……いや、半透明になっていた。その手を通して、朽ちた木製のテーブルの虫食い跡が微かに見えるほどだ。再び顔を上げると、ラファーの身体を通して、そう遠くない階段に敷かれた赤い絨毯まで見えそうだった。
ラファーも彼女の視線を追い、異変に気付く。二人の身体は、この古城と同化しているようだ。ラファーが立ち上がってジャンプしてみると、ふわりと数メートル上空まで浮いた。
「軽くなるのは全女子の夢だけど、これから『デスラブラジオ』は『ゴーストデスラブラジオ』に改名しなきゃかも。どうしよう、デイジー!」
ラファーは悲しそうな表情を浮かべて言う。
「体型管理も順調みたいだね」
デイジーは忘れずにそうつっこんだ。
「ダメダメ!まだ諦めることないって!ここから出てみるのはどう?このエリアを離れれば元に戻るかもよ?」
ラファーはデイジーを引っ張って古城を出ようとする。
二人でドアを押してみたが――予想通り全く動かなかった。
その時、ラファーの胸から一対の小さくて細い手が出てきた。そのうちの片方は華麗で優雅なランタンを持っている。ラファーの身体から出てきたのは、まさに包帯で覆われたレタの上半身だった。
「急いで帰らないで。もう少しレタと遊んでよぉ~」
「×××、デイジー!見て!あ……あたしの身体から人が生えてるううう!」
あまりの衝撃に走り出したラファーは、音を立てて障害物につまずき、床に倒れた。古い床からは抗議するような鈍い音が響く。
一方、レタはラファーの身体をすり抜け、笑いながらまた壁の中に入って消えた。
「自分の胸から人が生えてるの見るの怖すぎ!心臓飛び出そうなんだけど!デイジー、触ってみて。まだ心臓が動いてるか確認して!」
ラファーはお尻をさすりながら地面で身悶えしている。
しかし彼女はふと何かがおかしいと気付いた――周りが静かすぎるのだ。
思い返してみると、先ほどの騒ぎでラファーは恐怖のあまり数歩走って燭台を蹴り倒してしまった。白いロウが床にこぼれ、3本のロウソクのうち2本が消え、小さな1本の炎だけが凍える夜の冷たい風に、消えてしまいそうに揺らめいている。
「この子死んでないよね?」
ラファーは勇気を出し、燭台を手に取って調べた。すると残り1本の「風前の灯火」も、数回もがいて消えてしまう。
シャンデリアはぶつかることを止め、肖像画のまぶたもゆっくり閉じられる。友人のために静かに追悼しているかのようだ。
デイジーは何かを考えるように顎に手を添えた。
「ここに火を起こす道具はある?まだ救えると思う」
突然、デイジーが提案した。
「え?助けたいの?」
「よく考えて。古城に入ってから結構経ったけど、彼らは私たちを怖がらせただけで、実際には傷つけてない。それに見て」
デイジーは腕を上げる。
ラファーはその時初めて、互いの身体が元に戻っていることに気付いた。
そう遠くない壁から、小さな頭の半分がすっと現れる。この事件の元凶は、明らかにこの光景に驚いていた。
幽霊は壁から浮かびながら出てくると、裸足で小走りに駆け寄り、燭台をあちこち調べる。そして、安堵のため息をついた。
「まだ助けられる。わたしに任せて!」
彼女は手にしていたランタンから鬼火を取り出し、燭台の3本のロウソクに順番に火をつけていく。すると青い鬼火が古城に再び燃え上がり、壁に彼女たちの影を映し出した。
シャンデリアが再びシャララと楽しげな舞曲を奏で、肖像画も宙をぐるぐる回ってウインクをする。
ほっとしたレタは、燭台を救うのをずっと見ていた二人の客のことを思い出した。
「えっと……わたしの名前はレタ。この近所に住んでて、その……みんなが噂してる幽霊少女よ」
「ごめんなさい。ただ……久しぶりに誰かが遊びに来てくれたから、ちょっと調子に乗っちゃったの……本当にごめんなさい」
「燭台さんも痛かったよね……」
レタは悪いことをした子供のように頭を垂れており、二人を見る勇気がないようだ。
「最近、お城に人を誘ったんだけど、みんな怖がってきてくれなかったの!でもとうとう勇敢な新しい友達が二人も来てくれたから……」
「おもてなししたかったんだけど……失敗しちゃったみたい。調子に乗っちゃいけなかったのに……うう……」
レタの声はだんだん小さくなり、最後は聞き取れないほどになっていく。燭台、シャンデリア、肖像画も、彼女の後ろに浮かんで申し訳なさそうに少し下に傾いていた。
表情をこわばらせていたラファーとデイジーは顔を見合わせ、仕方がなさそうに首を横に振った。
「あの偽物に何したの?彼は大丈夫?」
「わたしはただ彼を怖がらせただけよ。わたしの名前を使って、色んな所で人を騙していたのは悪いことでしょう?彼はびっくりして気絶しただけ……」
つまり、幽霊少女はいたずらをしたかっただけの子供だったのだ。そして彼女は実際に人を傷つけたわけでもなく、既に自分の過ちを認めている。
「自分の間違いを認めるその姿勢、気に入った!ラファーもデイジーも寛大だから怒らないでおくよ。でも~今度デスラブラジオの特別ゲストとして、あたしたちのインタビュー受けて!そしたら許してあげる!」
「うんうん、できるだけ協力するわ!でも……あなたたちも、もっと遊びに来てくれる?ここにいるのはわたしたちだけで、他に来る勇気のある人はいないの」
レタは素直に頷いた。
「そんなの簡単、簡単。帰ったら記事を書いて宣伝してあげるよ!ここはニューシティで一番面白くてこわ~いお化け屋敷になるに違いない!」
こうしてスリリングな古城の冒険は無事に幕を閉じた。しかし早朝の霧が道を覆い、二人は来た道を忘れてしまった。それを知ったレタは、手を振って大丈夫だと示す。そして夢のような迷霧の中、二人は徐々に意識を失い、甘い夢に落ちていった。
「ほほ~ん、珍しく顔色いいじゃん、デイジーちゃん!」
歯ブラシをくわえて口を泡だらけにしたラファーが、洗面所に入ってきたデイジーに声をかける。
「昨夜は久々にぐっすり眠れたから」
「へぇ、あたしも。しかも超リアルな夢見たんだよねぇ。ハラハラする大冒険の夢!何人か新しい友達もできてさ!」
「ん?それって古城の夢?ラファーも?」
ラファーのベッドルームにあるパソコン画面が明るくなり、デスラブラジオの公式メールボックスに新しいメールが届いたことを通知する。
「古城の『包帯幽霊少女』があなたたちの招待をお受けし、次回の特別ゲストとして番組に出演します。同時に今週末のデヴォンジャー城でのパーティーにお二人をご招待します」
署名欄に名前はなく、少女の笑顔とその横にシャンデリア、肖像画、燭台が描かれているだけだった。
Fin.